【グアテマラ滞在記⑥ アティトラン湖】勇気の出し方は「足し算」③

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話し終わった後、クリスチャンは笑顔だったが、私の眼頭は熱くなった。

彼女は、勇気と愛で人生を切り開いていった。そして、彼女が周りに捧げた以上の愛を受け、この世を去ったのだ。死後も尚、彼女が残した『ギフト』は、こうやって今でも彼の中に生き続けている。

ここまで美しい生き方があるだろうか?

ここまで見たことも会ったこともない人に、心を動かされることを準備していなかった私は、彼に対して何も良い返しが出来ず、只々、黙って涙をこらえることしかできなかった。

そして、彼は一口グアテマラビールを飲み、話を続けた。

「そこから家族3人でなんとか頑張っていって、あっという間に大学進学の時を迎えたんだけど。特にやりたいこともなくて、将来つぶしが効く学部って何かな、って考えて、無難に経済学部を選んだんだよね。

でも、常に疑問を持ちながら過ごしてた。何かこう、自分の100%で生きていない感じ。

力が自分の中で余っているが、その矛先をどこに向けていいか、わからない。

他人に胸を張って説明できる、立派な目標を一生懸命考えてみたけど、どうもしっくりこない。

ずっと同じところに停滞しているけど、時間はどんどん過ぎていく。

自分のふがいなさに、嫌気がさす日々が続いた。

そんな日々が続く中、大学2年生の時だったんだけど。アシスタントをしていた教授のツテで、夏休みの間にインターンシップをすることになったんだ。

世界的に有名なコンサルタント会社のドイツ拠点で、同級生からはうらやましがられた。2年生でそんなチャンスめったになかったからね。

別にそれがやりたい仕事ではなかったけど、『皆がやりたい仕事なんだから、とりあえず試してみるか。別に目標とかないし。』って単純に考えて、参加することにした。

でもね。実際に働きだして、ますます疑問が増していくばかりだった。

周りを見ていると、一日14時間がむしゃらに働いて、笑顔もなく、ただただ機械的に過ごす日々。

もしかしたら、本人たちは楽しんでやってたかもしれないよ。だけど、自分にしてみたら全く生命力が感じられなくて、白黒映画を見ているようだった。

そして、悟った。

『まずい。このままの生き方じゃ、自分は幸せにならない。』って。

ただ“つぶしが効く”とか、“周りに評価されてるから”とか、“教授がいいって言うんだから”とか、そういう他人軸で決断をしてきた自分。

遅ればせながら、そこで“自分の100%で生きていない感じ”の理由が、はっきり自分の前に姿を現した気がした。そして、その根本に向き合うのをずっと先延ばしにしてきたけど、その日で『もう終わりにしよう』って決意したんだ。

そして、数日間色々模索していた中、突如母のドイツ行きの話を思い出した。

『最初から大きな勇気を持てたわけじゃない。ただただ、勇気を積み重ねていって、最後にお父さんと結婚してドイツに渡る、という大きな勇気に変わっていった。』という彼女の言葉と、その時の笑顔をね。

その瞬間、全てのモヤモヤが、自分の身体から蒸発していくように感じた。

『自分は目的意識がない、やりたいことがわからない』って自分を責めていたけど、その母の言葉を思い出して、自分の矛盾に気づいたんだ。大きな勇気、大きな目的意識、大きな信念とかを最初から持とうと思うのが、そもそも間違いなんだ、と。

小さな勇気、目的意識、信念を重ねて毎日生きていって、振り返ってみた時に、自分の大きな勇気、目的意識、信念が見えてくるんだ、って気づいた。点と点がつながって、線になるように。

それに気づいた時に、すぐにある思いが過ぎった。

『グアテマラの美しさに囲まれて暮らしたい』

それだけしか頭に思い浮かばなかった。だけど、それだけで良いって思えたんだ。ここから足し算していけばいい、って吹っ切れた。

あの日のことは、一生忘れない。

その日から、別人のように動いたよ。

まずは、インターンシップを終わらせた後、父親にこの想いを話した。

予想通り、大反対された。 彼は、コンサルタントとか、僕に給料的に安定した仕事についてもらって、安泰になってもらいたい、って想いが本当に強かったからね。彼自身が自営業で、常にスリルとの闘いだったから。口論が続いたけど、最後に力を振り絞って、こう言ったんだ。

『自分が本当に心から求めることを、勇気をもって進んでみたい。

簡単なことじゃないって、重々承知だ。だけど、母が最期まで幸せだったのは、常に自分の勇気を信じて行動に移したからだと思う。

だから、小さくとも大きくとも、常に前進していた。それが彼女がいつも幸せだった理由なんだと思う。

僕も、そうやって一生を終えたい。』

父の目には涙がたまっていた。そして、無言のまま上を見つめ始めた。

しばしの沈黙の後に、父は強い眼差しを僕に向けて、こう言った。

『自分を信じて、後悔ないように生きなさい。

とは言うけど、これはそんなに簡単なことじゃないことは、父さんもわかってる。自分の信念が正しい方向にちゃんと行くのか、迷う時がたくさんやってくると思う。

だけど、お前の人生はお前のもの。自信がないからって、他人の意見で自分の人生を積み上げることだけは一番避けないといけない。積み上げた分だけ、後悔も大きくなる。それよりも、少しの自信と勇気を信じて、小さな一歩でもいいから積み上げていく方が、後悔なく幸せな人生を歩める。

そして、どこへ行っても、自分が他人から助けてもらう以上に、他人を助けるように心掛けなさい。

だけど、それ以上に、自分をまず幸せな状態にすることを心掛けてほしい。自分が幸せな状態じゃないのに、他人を無理に助けようとしても、見返りばかり求めるようになってしまう。自分を、自分の一番の親友だと思って、常に大切にしなさい。

最後に。辛い時こそ、笑顔を作りなさい。人間不思議なもので、笑顔でいるから幸せになるし、悲しい顔をしているから悲しくなるもの。

自分の幸せは、自分で創れる。そう思える人が、行動できるし、笑顔で死ねる。

全部、お前の母さんが教えてくれたことだ。』

父の目から涙がこぼれ落ちた。その日以来、彼は何も反対してこなくなった。

(来週投稿の最終回に続く)

コメント

  1. 美香 より:

    自分が幸せじゃないと見返りを求める…なるほどです。
    クリスチャンのお話、お父さんの言葉、素敵な出会いですね。

    ほんとは自分は何をしたいのか

    その言葉を聞いて生きてこなかった私ですが(人生半分以上過ぎた私)、残りの人生をどう生きるか
    それが私の課題です

    次回も楽しみに待ってます✨

    • ブッチィあゆみ より:

      コメント、ありがとうございます!!(#^^#)

      自分が満たされてないと、その満たされていない部分を他人から補おうとしてしまうんですよね。。私の経験からも、大納得の言葉です。

      残りの人生、お互い悔いなく生きていきましょうね。失敗よりも怖いのは、後悔だなと思って生きてます。大きなことを成し遂げられなくても、後悔なく、やり切った!と思って死ぬことだけを目標に生きています(#^^#)

      今後も、美香さんがますます元気になれるようなストーリー、お届けしますね!

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