人生はチョコレートの箱。開けて開けて開けまくる。【パレスチナ滞在記②】

前回のブログからの続きです⇒

シャロンが検問所のイスラエル兵士にヘブライ語で何か説明した後、検問所の兵士が私の方に向かってきました。私のパスポートをチェックしにきた兵士は、高校卒業したてのような、まだまだあどけなさが残る男の子。

「武器は持っていますか？」と質問され、いいえと答えると、すんなり中へ入れてくれました。パレスチナ人は許可証を持っていても、厳しい検問で1〜２時間待たされることもザラだというのに。雲泥の差だ。

検問所を出た後、シャロンは、パレスチナにおけるイスラエル兵士の現状を苦い顔で教えてくれました。このあどけない顔の兵士たちが、パレスチナ住民の家に突如押し入り、家を荒して帰ることは日常茶飯事。別に住民が何かをしたというわけではなく、単なる嫌がらせだとのこと。

そして彼女は強い意志を感じる眼差しで、私にこう言いました。

「この地球上は、残念だけど強者と弱者の対立が溢れている。イスラエルとパレスチナもそう。

本当に長い争いの歴史だから、どっちが悪者、と簡単に割り切れない。だけど、今自分の国がやっていることは、明らかに弱者を徹底的に追い込んでいる行為としか思えない。

その構図を見て見ないふりしていることは、強者の見方をしていることと同じだと思う。だから微力だけど、こうやってボランティアとして活動してるんだよね。」

私はその言葉を聞いて、思わず涙してしまいそうでした。

もし彼女と同じ立場だったら、私は同じことが言えるのだろうか？

なんて強く美しい人なんだろう。

私が訪れた日は、そのような対立を感じさせないくらい、とても穏やかな日だった。

そして、遂に壁に到着。車を降りて、ニュースの中だけに存在すると思っていたその壁に触れてみる。鳥肌と共に、私は四方八方に張り巡らされている壁を仰ぎ見ました。

世界中からアーティストがパレスチナを訪れ、反戦を謳ったアートを壁に残し続けている。

そして、ふと思いました。

この壁って、誰の心の中にも存在するものだ。

『自分が正しい』と思った瞬間に、自分の心の中に『壁』が出現する。

その瞬間に、他人への疑念や怒りが生まれ始め、最後には争いへと発展してしまう。

イスラエルとパレスチナはその縮図なんだ。

私が無言で壁を見ていると、シャロンはこのヨルダン川西岸地区について色々と教えてくれました。

『自治区』と謳っているが、実際は面積の60%以上がイスラエルの支配下にあり、厳しい監視下に置かれていること。

そして各地でイスラエル人の入植者達が横暴な振舞いを繰り返していて、パレスチナ人が家を追われていること。

許可証を持っていない人達の方が大多数なので、壁の中で一生を終える人達がたくさんいること。

だけど、壁を乗り越えて愛し合い、困難に打ち勝ち、結婚するイスラエル人とパレスチナ人もいること。

イスラエルの若い世代で、反戦派が徐々に増え始めていること。

そして、彼女が言った次の言葉が忘れられません。

「人間って弱い生き物だよね。弱い人間ほど、自分の間違いを認めたくないから、『自分の正義』を振りかざす。だから、争いがこんなにも世界中で続いているんだと思う。

この世の中に『正義』があるとすれば、『目の前の人と理解しようとすること』、ただそれだけだと私は思う。」

本当に、『チョコレートの箱』のような経験でした。開けてみないと、まったく形も色もわからなかった。そして、パレスチナの現状の『苦み』だけではなく、そのような状況を愛で変えていこうとしている人達の『甘み』も味わえた。両方味わえたからこそ、この体験が私自身の深みを一層深めてくれました。

人生の選択肢ごとに『チョコレートの箱』が用意されている、と私は思っています。しかし私達は『見たこともないようなチョコレートの箱』に魅せられながらも、開けるのを躊躇しがちです。「もしかしたら苦みだけのチョコレートの箱かもしれない」って不安になるから。

そういう箱こそ、開けて開けて開けまくる。

そうやって生きてきたことによって、私は１つの結論にたどり着きました。今回は、その言葉でブログを締めさせていただこうと思います。

「完璧なチョコレートの箱など、この世の中には存在しない。

苦みだけのチョコレートの箱も、甘みだけのチョコレートの箱もこの世界には存在しない。見た目や形が違うといえど、どの箱でも均等に両方のチョコレートが入っている。

大切なことは、一つの箱を、苦みも甘みも両方経験するまで味わいつくすこと。これが人間として深みを得ていくために必要なことだ。

だからこそ、理由もなく心が惹きつけられる箱を選ぶ。それが自分の人生に対する『決意』となって、その経験を最後までやり抜くための、大きな燃料となる。

これを愚直に続けていくことだけが、人生の意味なんだ。」

（完）

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